9
こいつらにはを見せたくなかったのに。
の隣にいる二人を見て、激しく嫉妬を覚える馬超だった。
*見えない壁の*
「、何してたんだ?」
「や、少し談笑を・・・。」
「あいつ等と何時何処で知り合ったんだ?」
「姜維さんは、2週間くらい前、馬超さんが城へ行って留守の時に。
趙雲さんは今日始めて会いました。」
「ふうん。」
さっきから同じような質問の繰り返し。
は少し面倒くさくなっていた。
「ってか、馬超さん。重いです。」
今、は馬超に後ろから圧し掛かられている。
良く言えば、後ろから抱きしめられているのだが、
そんなに良いものには感じなかった。
ちなみに此処はの部屋である。
あの後趙雲と姜維と別れ、書簡を隠すために部屋へ戻ってきたのだった。
しかし、そこに馬超がついて来た。
非常にまずい。
感謝の気持ちを記した書簡はまだ見せないでいるつもりだったからだ。
見せるまでは秘密にしていたい。
何とか袖の中に隠してあった書簡を、
布団の下に滑り込ませることに成功して、今に至る。
だが、早く別の所に隠さないと、ばれてしまうかもしれない。
そのためには、早く退いてもらわないと。
そう思っては馬超を押しのけようと必死にぐいぐい押すのだが、
流石は武人。ピクリとも動かなかった。
反対に、締め付けがきつくなっているような気がする。
「酷いな、。俺は執務中だっていうのに、楽しくお茶会なんて。」
「うっ。今度からは馬超さんも呼びますよ。そして重いです、馬超さん。」
は赤く染まりかかった顔を馬超に見せないように、なるべく前を向いておく。
重いです、なんて言ってみるけど。
実際はそんなに重くない。
多少苦しくもあるが、そこまでではないのだ。
そこが問題なのではなくて。
そんなにひっつかれると恥ずかしい・・・。
その一言だ。
馬超さんと違って、異性になれてないんだから。
哀れ馬超。
普段からのへの激しいスキンシップのせいか(←愛故)
完全に女なれしていると思われています。
「・・・・。」
「馬超さんたら。」
「なぁ、その・・・此処に来て結構たつんだからさ、馬超さんっての止めないか?」
「え?馬超さんを止める?」
話をそらしたのか、そうではないのか。
さっきまでは悪戯をしている子供みたいに、ニヤニヤ笑っていたのに、
馬超は少し考えた顔をしたかと思ったら、いきなり話を変えた。
「あー・・・『さん』を付けるなって事だよ。」
「馬超殿。」
「なめてんのかお前。」
「すっすみません!呼び捨てって事ですか?でも、馬超さんは恩人だし・・・。」
「でもも糞もねぇの。」
しぶるに馬超はムスっとして、後ろからの鼻をつまんだ。
「んぶっ!!ひょっ!まてょーさっ!(ちょっ!馬超さん!)」
いきなりの行為に吃驚したは、なりふり構わず、自分の鼻をつまんでいる馬超の腕を引っ張る。
「さん取るまでは止めないからな。・・・そうだ、孟起でもいいぞ?」
「ふぇっ?もーき?」
あれ、孟起って確か。
「俺の字だよ。字。」
やっぱり。
馬超は、が一度字で呼んだことに満足したのか、彼女の鼻から手を外した。
そして、一息深呼吸しているの身体を器用に反転させて向かい合う。
「もう他人行儀はなしだ。敬語もやめろ。」
「え・・・?」
この言葉にはピタリと動きを止める。
馬超は、さっきの戯れていたときのような顔ではなくて、酷く真剣な顔だ。
話をそらすのは、許さない、と言うように。
他人行儀はやめろ、か。
自分でも、気がつかなかった。
そうだ。私には、あまり深く付き合いすぎてはいけない、そんな考えがあった。
それは、敬語・敬称をつける事で成し遂げていたのであろう。
そう言えば、敬語の苦手な私なのにずっとつけていた。
恩人だからそれは当然・・・
本当にそう?
壁を、作っていなかった?
でも。
此処は私の帰る所とは違う場所。
それに、もともと大好きな世界だ。
これ以上仲良くなると帰る決心がなくなりそうで。
・・・怖い。
「・・・。」
俯いて押し黙ってしまったを見て、馬超は短く溜息を吐く。
「俺達とは仲良くできないか?」
「そんなことないっ!」
そう言って急に顔を上げたの眉は不安げに垂れ下がっていた。
「そうか、それは良かった。」
馬超はにやりと笑うと、そんなの頬に触れた。
「お前はもう家族なんだ。いつまでも一人で気貼ってないでゆっくりしろ、と今まで何回言った?
今、お前の帰る所はここだろう?」
の目から、ぼろりと涙が零れ落ちた。
「家族」そんな言葉を聞いて、何故かの身体からふと力が消えた。
涙を隠そうと俯こうとしたが、頬にある馬超の手がそれを許さない。
「やっと、泣いた。」
「っふ・・・ぅえ?」
「泣きたいときはいつでも来いと、前に言っただろう?
こうでもしないと、お前一人で泣いてばかりだろう。」
「何で知ってるの。」そう言おうとしたけれど、
口から出てくるのはしゃくりあげる音だけだった。
いつの間にか私は馬超さんの胸の中に顔を突っ込んで、大泣きしてしまっていた。
家族に会いたい寂しさか。
知らない世界への不安なのか。
はたまた、馬超さんの優しさが嬉しかったのか。
どの涙かは私でも解らなかったが、私は逃げることはせず、そこで泣いた。
此処から離れられなくなるくらい、仲良くなるのが怖い。
でも、手遅れか。
こんなにも涙が出てしまう。
寂しい寂しいと、自分の中の誰かが叫んでいる。
「落ち着いたか?」
「・・・・ん・・・・。」
「今日はもう遅い、このまま寝ろ。」
「・・・・・・・。」
「何だその目は。言っとくが何もしないぞ。」
「耳ちゅーの前科もちなのに?」
「そうだな。」
「そうだなって・・・・あ、馬超さん。」
「何だ。」
「私、馬超さんの『さん』は取らないよ。その代わり、敬語は取らせてもらうけど。」
「・・・。」
「何、その不満そうな顔。何かもう『さん』付けて呼びすぎて、癖になっちゃったから。」
「・・・しゃーねぇな。」
どんなに距離を置いてみたって、
どんなに壁を作ってみたって、
それは彼との間には無駄なことだった。
だって私はずっと前から彼を知っているし、
ずっと前から彼が好きだ。
それに、彼はそんなの飛び越えてきてしまうから。
不覚にも、彼の優しさに胸がドキリとしたのは、まだ、秘密。
BACK*menu*NEXT
あー、何かシリアスもどき??
甘いのが苦手な私にはどうにもこうにも;
何してんのよ、馬超さん(笑)
初めて人前で泣きました。
そろそろ諸葛亮さんに会いに行かなきゃ。
中編って何か駆け足;;
08.04.29