「あ、こんにちは!」


今日も今日とて、庭で日課の洗濯物干し。
そこに現れたのは・・・。






*伝えたい気持ち*








「また来ちゃいました。」


そう言って姜維はぺこりとお辞儀をする。
彼は初めて会った日から、こうしてちょくちょく来てくれるのだ。
お仕事に差し支えは無いのかと聞けば、用事で城から外へ出る時によっているから大丈夫、だそうだ。
あのお花見以来、庭には机と椅子がずっと置いてある。


「いいえ、いつも来てくださってありがとうございます。」


はニッコリ笑って、持っていた洗濯用の籠を地面に置いた。
今仕事が終わったところだったのでグッドタイミングだ。
机の横に立っている木には、もう花はあまりついていないけれど、
こうして喋ることができるのがとても嬉しい。

そして、がいつも通り机のある方へ招こうとすると、
姜維はあっと思い出したようなそぶりをして言った。


「今日は私一人じゃないんですよ!」

「え?」


一人ではない??
首をかしげていると、思っても見ない声が。


「姜維、こっちにいるのか?」


・・・・この声っ!


「馬超殿と同じ、五虎将のお一人である趙雲殿です。」


そう言った姜維の目線の先を恐る恐る追うと、
玄関から庭へ繋がる小道を歩いて来るベビーシッター・・・・じゃなくて、若き武将が。


「ちょちょちょちょ趙雲さん!?」


これには彼女もびっくりだ。
は思わず口を手で押さえた。
だって、こんな素敵なことは知らされてなかったし、想像もしていなかった。

これで槍族全員に会えたよ!
姜維グッジョブ!!!!!!




「始めまして趙子龍と申します。あなたは殿ですよね?噂は聞いていますよ。」


趙雲は興奮して放心状態であるの目の前まで歩いてくると、
ニッコリと笑って言った。
太陽と青空をバックにして、凄く眩しい。
色んな意味で、眩しい。


「う、噂ですか??」

「そうですよ。馬超が最近入った女中に夢中で、仕事が手につかなくなっているとか、
 姜維が最近可愛い女の子と会っているとか。」

「ちょっ趙雲殿!!」


その言葉に慌てて姜維が止めに入るが、もう遅い。
そう、そんな情報が漏れるとしたら、彼女の存在を知っている姜維からであることは明白だ。
「可愛い」と言ったことが恥ずかしいのか、姜維は頬を少し赤らめている。
しかし、はそれには気がついていないのか、
ポカンとしているだけだった。


「趙雲さん、それって私の事って訳ではないですよね。」

「え?殿の事でしょう?」


何を言っているのですか、と趙雲はくすくす笑うが、は納得がいかないといった顔だ。


「うわぁ、それって尾ひれ付き過ぎじゃないですか。」


しかも、馬超さんのお気に入りの女中さんは別の人のことだろう。
仕事が手につかなくなる理由にされたらたまったものではない。
本人は本当にそう思っているようで、眉をひそめるどころか、頬が少しひくついている。

趙雲はそうでもないと思いますよ、と一言言ったがそれ以上はその話はしなかった。



「ところで、姜維さん、今日は何でお二人なのですか?もしかして、馬超さんに用事ですか?」

「いいえ、そうではないんですよ。今日は外の仕事の帰りに寄ったんです。
 仕事が趙雲殿と一緒だったので、そのまま二人で来たんですよ。」

「そうなんですか!お仕事お疲れ様です。趙雲さんもわざわざ有難うございます!
 よかった、今日はお茶会ができないのかと思っちゃいました。」


そう言って、は嬉しそうな顔をしてペコリと頭を下げた。
どうやらこれは癖のようで、最近やたらとお辞儀しているような気がする。
悲しいかな、日本人の性(さが)だ。
しかし趙雲には好印象のようで、こちらも笑顔で答えてくれた。


「いいえ、私も噂の殿に会ってみたかったので。」

「・・・噂どおりでなくて申し訳ないです・・・。」

「何を言っているのですか。噂以上ですよ。」

「その言葉、有り難く受け取っておきますね。」

「あ、信じてないでしょう。」


その顔でそんなこと言われたら、本気にしちゃうじゃない。

少しいたずらっぽく笑う趙雲はさわやか満点の顔だが、
の顔はどこかふてくされていた。




「そう!殿!この前おっしゃっていらした物、持って来ましたよ!」


さて、さっきから少し会話に混ざれていない姜維。
頑張って二人の間に入ります。
姜維の参入により、趙雲の顔がさわやかから少し黒いものに変わったのには、
誰も気がつかなかった。



「書簡と筆と墨、でしたよね!」


姜維はウキウキと布に包まれたそれらを取り出し、に手渡した。


「ありがとうございます!」

「いえ、これくらいお安い御用ですよ。」


は顔を輝かせて、姜維から受け取った包みをぎゅっと胸に抱いた。


「何か書かれるのですか?」


今までの経緯をまったく知らない趙雲はに問うた。


「はい。・・・話すと長いのですが、色々有って、私は馬超さんに助けてもらった身なのです。
 しかし、その恩返しをしようにも、私、何をしたらいいのかも解らないですし、お恥ずかしながら
 一文無しでもあるので・・・。そこで、一先ずこの感謝の気持ちをお手紙にして馬超さんに渡そうと
 思いまして、道具の事を姜維さんにお願いしたんです。馬超さんには秘密なので、借りる事ができなくて。」


は少し困ったような顔をして趙雲を見上げた。


「そうでしたか。馬超はあれでも情が深いやつですから。喜ぶのではないでしょうか?」


はその言葉に対して、嬉しそうに頬を緩めた。
その顔を見て趙雲が「これは、かまいたくもなるな。」と思ったのは彼だけの秘密。












「はっ!」

「どうしました?」


あの後、何時もどおり、木下の椅子で談笑をしていたは気がついた。
・・・ここでは日本語は通じるのか?

はトリップの夢小説が好きで、良く読んでいた。
そしての読んだ大体の夢小説では、話すことは大丈夫だが文字が通じない場合が多い。
もし、馬超に文字が通じなかったら、手紙を書いても意味が無いのだ。

は急いで椅子から立ち上がり、近くに落ちていた木の棒を拾い上げ、
その棒を使って地面に「あいうえお」と書いた。
それらの様子を二人はぽかんと見ている。


「すみません!お二人とも、この文字は読めますか!?」


二人はの書いた字を見つめる。



・・・どうか、通じて!!



「んん、ちょっと見たことが無いですね・・・。殿の国の文字ですか?」

「すまないが、私も見たことがないな。」



やっぱりかーーーーーーーー!!!!



はガクリと項垂れた。
それに慌てて姜維が駆け寄る。


「どうしましたか!殿!」

「姜維さん・・・今更ながら重大なことに気がつきました・・・・。私、此処の言葉が書けません。」

「え?そうなのですか?」

「はい。どうしましょう!?折角書簡を持ってきてもらったのに、手紙書けないです。」


はしょんぼりと俯いた。
そんなを見て、男二人は顔を見合す。


「では、殿の言葉を私が書き出しましょうか?
 そして、それを見て殿が写して書けばいいのです。」


姜維の提案にぱっと顔を上げただったが、すぐに顔を曇らせる。


「そこまで迷惑はかけられませんよ。」

「それくらい、お安い御用ですよ。それに、殿の恩返し協力したいのです。
 ・・・それに、私達は友達でしょう?」

「!姜維さん・・・。」

「そうだな。殿、こういうものは素直に受け取っておくものですよ。」


は二人の顔を交互に見た。
二人はニッコリと微笑んで此方を見ていた。
あぁ、何て親切な!
そして友達だなんて。確かに最近凄く仲良くなっていたけれど、そこまで考えてくれていたなんて。
ちょっと涙でそう。





「では・・・お言葉に甘えちゃいますよ・・・?」












「で、できました!!」


はできたての書簡・・・もとい、手紙を持ち上げた。


「やりましたね!」


姜維も一緒に喜んでくれた。

あれから早速手紙を書き始めたは、姜維と趙雲に教えてもらいながら手紙を完成させた。
今は二人がいるので、つっこんだ内容は書けないのだけれど、
伝えたい気持ちは全部書いたつもりだ。
まだまだ恩返しとは程遠いが、一歩進めた気がしてとても嬉しかった。


殿凄いですね。書くのも早いし、字も綺麗だ。」


趙雲からも褒められ、少し頬を染める。
達成感と顔に溜まった熱のせいで、風がとても気持ちいい。


「本当に、長い時間付き合っていただいて有難うございます!助かりました。
 今度は姜維さんと趙雲さんにお返しをしないといけないですね。」

「いえ、今日は暇だったので丁度良かったですよ。
 お返しなんて、そんな大したことはしていません。」


はそうだ、というふうに手を打ったが、
姜維はそれに対して両手をブンブン振り、遠慮した。趙雲は、


「そうですね。しかしお返しですか・・・・。今度一緒に遠乗りにでも着てもらおうかな。」


この辺りが年齢の差、か。しっかりというか、ちゃっかりしている。


「あ!趙雲殿ずるいです!なら私も、城下について来てもらいます!」

「ふふっ有難うございます!楽しみにしてますね。」


そんなの、お返しなのに、こっちが特しちゃいますよ。
と、も始終笑顔だった。



三人の会話も弾んで、そろそろお開きか、と思ったその時。



、まだ庭にいるのか?」


・・・!馬超さん!?

馬超の声と、此方に近づく足音が聞こえ、はとっさに書簡を袖の中に隠した。
まだ、この書簡を馬超さんに見られるわけにはいかない。


「おーい、・・・・・・って、おい。」


馬超が庭に来て目にしたものは。


「こっこんにちは馬超殿っ!」

「邪魔してるぞ。」

「ば、馬超さん、どうしました!?」


何故かあたふたしている姜維と、
悪びれもなく飄々と言う趙雲と、
カチンと固まっただった・・・。



「あん?何でお前らがいるんだ?」




どうやら姜維は、彼に秘密でに会っていたかったようで。
「しまった」という姜維の顔を見たのは趙雲だけだったとか。




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でました。
今度は殿命の彼が出ました。
あんまり動かない趙雲。少し黒属性なのか趙雲?
今回は姜維がちょっとイメージに近づいたかな、と。
馬超さん出番少なくてごめんなさいw







08.04.26