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・・・お給料もらっちゃった・・・。







*ようは、慣れ。*









「はぁ、どうしよう。」


今まで3週間近く馬家で働いてきた。
掃除・洗濯・馬超さんのお手伝い。
色々やってきた。
・・・やってきたが。


これは居候のお礼としてやってきたのに。


「居候の分以上に頑張ってくれているから。」と、
今日馬岱さんに無理矢理渡された。
突っ返す訳にも行かず、まして使い道も解らない。
そりゃあ嬉しいけど。


は、そのまま袋に入ったそれを引き出しの中にしまった。





いつか、これを使っても良いと思う日が来るまで。









はふっと微笑んで寝台に寝転がった。
もう今日は日課の洗濯物は終わってしまったし、お昼御飯もさっき食べた。
此処最近の自分を振り返ると、随分と此処の世界に慣れてしまっている。
それが良いのか悪いのかは解らないが、前の、馴染まないように頑張っている
時よりかは、格段に気持ちが良かった。







部屋に差し込んでくる昼の日差しが暖かくて、うとうとしだしたとき、
コンコンとノックの音がした。



もう、ノックの叩く調子だけで誰だか解るようになった。


馬超さんだ。



、いるか?」



を呼ぶ馬超の声が聞こえ、は自分の胸がぎゅっと締まるのを感じた。

変だ。

あれから、(馬超さんを呼び捨てにすると言った日から)変なのだ。
声を聞いたり、姿を見るだけで、いやにドキドキとする。
いや、この感情の名前はよく知っている。知っているが・・・。


「私、無双で好きだったのは火計少年だったのに。」


って違う。
それは置いといて。
マジメな話、此処は違う世界。




「おい、入っていいのか?いるんだろ?」


は二度目の馬超の声ではっとして、何とかその思考を振り払い、
慌てて扉まで行って、馬超を招き入れた。



まだ、このことは深く考えないでおこう。
ただ、今の生活を楽しもう。

そう心に決めて。










また、何か仕事だろうか。




ひとまず、馬超を部屋の中に招き入れて、はじめに思ったことはこれだ。

私の午後は、大体は自由か、馬超さんが言ってくる仕事をしていた。
と言っても、馬超さんは「肩を揉んでくれ。」や「馬岱からかくまってくれ!」
など、仕事と程遠いことを頼んでくることがしばしばあったが。


今日は何だろうか。


の部屋に置いてある小さな椅子に二人は腰掛けると、馬超は
「軍師殿に会いに行く話を覚えているか。」ときり出した。



「え、諸葛亮さんに日本を知らないか聞きに行くってやつ?」

「あぁ、それだ。それなんだがな、明日が軍師殿の都合が良いみたいで、
 明日行くことになったからな。」

「へぇ、明日・・・・・て、え?明日?」

「明日だ。」


は馬超の目を見ながらポカンと固まった。


「きゅ、急だね・・・。」


だって。
あの。諸葛亮さん。
あの、諸葛亮さんだ。
明日なんて、急すぎる。
何から話すか、どこまで話すかなんてまだ考えていなかった。
いや、忘れてた訳じゃないんだよ、うん。


「いっちょまえに緊張してるのか?」

「そりゃぁ、するよ。世紀の大軍師だもん。」


馬超は、伸びながら「ははっ良く知ってるな。」と笑いながら言って席から立った。
私はそれに苦笑いで返す。
危ない危ない。あんまり微妙な発言して、間者か何かだと思われたら
たまったものではない。
今までの信用が水の泡よ。
大軍師の前で変な発言しなけりゃいいけど。




「ねぇ、今日は何も手伝うことないの?」


諸葛亮の所に行くという話は、どうせ考えても解らないことだ、と諦め、
暇をもてあましていたは馬超に仕事を請う。


「ん?まぁ、手伝うことはないが・・・そうだな。ちょっとついて来い。」


すると馬超は少し考えた後、
指で部屋の出入り口を指して部屋から出て行ってしまった。
は慌てて後を追う。
いったいどこへ行くのだろうか。


今日は格段に天気が良い。そんな事を思いながらトテトテと廊下を歩き、
馬超後を追って着いたところは厩(うまや)だった。
は厩にはあまり来たことはなかった。
何せ、この世界に来たときの状況が状況だ。

トラウマにならないはずがない。





「ばちょーさーん。ね、止めようよ。」


は厩にずんずん入っていく馬超の服の端を捕まえた。
いきなり厩、なんて。
なんだか嫌な予感がする。
今はまだ、馬は怖い。


「ちょっと馬、トラウマなんだけど・・・。」


の顔は引きつっていたが、少し上目遣い。
そして、自分の服の端を掴んでいるときた。
・・・ちょっと馬超の自制心がくらりときた瞬間だ。


「ぉぉぉい、なんだよ。馬駄目なのか?」


少し顔を赤らめつつ、自分が大好きな馬の事を嫌いな奴がいるのかと、少し残念に思った。


「だって、此処に来るとき、気絶するくらい怖かったんだもん。」

「あぁ、そうだったな。俺はあの時、山賊か何かに襲われて無理やり馬に
 乗せられていたのかと思ったんだが、確か自分で乗ってああなったんだよな?
 凄い格好だったもんなお前。」


馬超はニヤニヤしながら、の奇妙な馬の乗り方を思い出すそぶりをした。


「ちょっと!思い出さないでよ!あれは王蒼がいきなり走り出したから・・・!!
 ねぇ!!本当に怖かったんだから!笑うなーー!」


ケタケタと笑い出す馬超には顔を真っ赤にして、パシンと馬超の肩をはたく。
それでも馬超はしばらく笑い続けたが、次の一言ではピシリと固まることになる。





「と言ってもな、軍師殿に会いに行くには馬を使うぞ?」





は目の前がまっくらになった。

















「気持ちいい!」


今目に映るは、見渡すかぎりの草原と、どこまでも青い空だけだ。
は前から来る爽快な風を受け、ご機嫌である。


「何だよ、さっきまで怖がってたのに。」


そういいながら、馬超はの後ろで栗毛の馬を操っている。
今二人は相乗り中。
あれから、散々嫌がるを無理矢理馬に乗せ、今に至るのである。

馬超は呆れたような物言いだが、から見えないその顔は、始終笑顔だ。


「だって、元々馬って乗ってみたいって思ってたんだもん!
 始めて乗った馬の乗り方が悪かっただけで。」


「でも、王蒼はまだ怖いかも。」なんて言っているのさらさら流れる髪を見ながら、
馬超はふと考えた。


馬に乗ったことがないだなんて、はじめは民か何かだと思ったが、そうでもないらしい。
手はきれいだし、生活全般をこいつは知らなかった。
未だにはっきりとしないの国。
彼女の口からも多くは語られていない。
お前はいったい何者なんだ?




「明日、軍師殿に聞けば、解る、か。」


・・・まぁ、考えてもしかたがない。

俺よりもはるかに知識も洞察力もある男だ。
何か解るかもしれない。




「何か言った?」

「いや、独り言だ。」


馬超はふっと頭を振ると、
考えを振り切るかのように馬のスピードを上げるのだった。













「ひゃー!楽しかった!!お尻痛い!!」


は馬超の手を借りて、馬からひょいと降りる。

二人は、栗毛の馬で一回り青空の下を駆けた後、邸に戻ってきたのだ。
只少し駆けただけなのに、には十分だったらしい。
彼女は終始満面の笑顔でお尻をさすっていた。


「嬉しいのか尻痛いのかどっちだよ。」


笑いながら痛い痛いと言うの奇妙な姿に、馬超はつっこんだ。
そんな彼もにつられたのか、良い笑顔をしている。


「しかし、馬にも大分慣れたんじゃないか?始めはへっぴり腰で落馬しそうだっただろ。」

「もう!それは言わないでよ!はじめは慣れなかったんだから。
 でも、うん。そうだね、今は大丈夫かな。もう怖くない。」


は自分でも単純だと思ったが、
それでも馬に乗ることができたことは嬉しかった。


「そうか、なら、王蒼に会ってみるか?」

「ん?王蒼?・・・うーん。今なら大丈夫・・・かな?」

「そりゃ良かった。王蒼も会いたがっていたからな。」

「王蒼が?」


さすが馬超さん。馬との会話もばっちりだ。
は真剣にそう言っている馬超を見て、つっこむことは止めておいた。

馬超は栗毛の馬を引きながら厩の中に入る。
もちょこちょことそれに続いた。






「ほら、。こっち来い。」


馬超は厩のとある場所にてを手招きする。
彼の隣には、さっきまで背中に乗せてもらっていた栗毛の馬。
そして後ろには真っ黒で目だけが青く輝いてる馬がいた。


「・・・王蒼・・・。」


は恐る恐る近づくが、王蒼は馬超の傍をするりと抜け、
彼の方からに近づいてきた。


「わわっ!ちょっ!近づいてきたぁぁぁ!」


は少々パニックになって、馬超に助けを求めるが、彼は王蒼の向こう側にいる。
即ち、助けはなかった。
そうこうしているうちに、王蒼は黒い身体をのっそり動かしてどんどん近づいてくる。
は怖くて思わず目を瞑った。



「うひゃぁ!」


目を瞑っていると、頬に何かあたった。

うっすら目を明けてみると、そこには王蒼のドアップ。
どうやら頬ずりをしてきたらしい。


「う・・・馬超さん・・・!」


はどうしていいのか解らない。
栗毛の馬のお蔭で前ほど恐怖は感じなかったが、
黒い巨体はやっぱり少し怖かった。


「大丈夫だ。王蒼は賢い馬だ。人を襲ったりはしないさ。
 それに、お前、王蒼から気に入られているじゃないか。撫でてやれよ。」


馬超はそう言って、王蒼との肩を一緒にぽんぽんと叩く。
そうすると、不思議とから恐怖心が消えていった。




なんだろう。馬超さんが隣にいてくれるだけで、怖くなくなった。
それどころか、安心する。




はそっと手を伸ばし、王蒼の顔を撫でた。



あたたかい。




王蒼は気持ちよさそうに擦り寄ってくる。


「ごめんね。もう王蒼の事怖くないよ。」


さっきまで悲しそうな目をしていた。
そう感じた。
でも、私が撫で返してあげると、嬉しそうに目を細めた王蒼。
なんで、怖がっていたのかが不思議になるくらい、温かかった。


「な、大丈夫だろ。」


馬超はそんな光景を嬉しそうにして見ていた。

















私を此処に連れてきたのは、多分、君。




それは何故?











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今までほったらかしだった王蒼くん(雄)とご対面!

トリップしてから休養期間約一週間+働いてから約三週間。
ほぼ一ヶ月です。


なんか、馬超さんにいじられてばっかりのような気がする;


・・・・あ、10話だ。
よくもまぁ痛い文章を・・・・頑張ったな、自分。

08.05.09