朝が来ました。
ここへ来て6日目の朝です。




*私の日課は馬超さん探し*











「また泣いてたのか、私。」


湿る布団とほっぺに残る水滴が、さっきまで泣いていたことを教えてくれる。
頭の中では理解できていることも、心の中ではまだ混乱しているらしい。
ここのところ毎朝この状態だ。
泣いている自覚はないのだが・・・。


「もう4日目なのに・・・いや違った、6日目か。」


聞くところによると、私は此処に来て2日間ほど寝込んでいたらしい。
現代では、意識がはっきりしないくらい寝込んだことなんてなかったのに。

はふうっと溜息をはいた。


「考え込んでいる暇なんてないや。今日こそお仕事を貰わないと、タダ飯食らいになっちゃう。」


は、意識が戻った次の日から、仕事が欲しいと馬超や馬岱に頼み込んでいた。
時には女中の香蘭さんにも。
しかし、彼らは「ゆっくりしていろ。」「お客さんですから。」
と言って今まで仕事をくれなかった。
はそれに対して不満そうだったが、香蘭さんの
「とりあえず、こちらの生活に慣れてはどうでしょうか?」
とのアドバイスにより、暫く仕事をあきらめて此方の生活に慣れようと努力した。
おかげで、もう此処の服もばっちり着ることができるし、この迷路のような邸にももう迷わない。
それに、此処の人達とも大分打ち解けることが出来た。





時は来たり!!!!!!!!







は貸してもらっている女中の服に着替えた後、馬超を探しに出かけた。


「ど〜こ〜か〜な〜♪ど〜こ〜か〜な〜♪金髪のお馬さんっ♪」


てきとうな歌を歌いながら、とりあえず彼の、いわゆる仕事部屋に向かう。



「執務・・・なんてしてないよね。」


なんて失礼な事を口走りながら、はひょこりと顔を覗かせてみる。

の中の馬超のイメージ(あくまでも無双だが)は、
「正義だけれど執務は苦手な元気なお兄ちゃん」だった。
そのイメージはどうやら的中のようで、今までにも馬岱の
「従兄上!?どこにいらっしゃりますか!!!」という怒鳴り声も聞いたことがあった。
馬超の主張によると、「俺は家には仕事を持ち込まん。」だそうで、
お城ですべて済ましていると聞いたのだが。本当かどうかは定かではない。

そうそう、彼は週に3〜5日くらいは城へ出かけるらしい。
夜は戻ってきたり来なかったり、色々だ。
しかし今のところは、馬超が城へ行く姿は一度しか見ていないのだが。





「あれ?殿?」


誰も居ない、という予想に反して仕事部屋には人がいた。
しかしそれは馬超ではなく、部屋の入り口でうなだれている馬岱だった。


「・・・またですか。」

「そうです。またです。」


やはり、馬超に逃げられたそうだ。


「最近城へ参上されてませんので、少しですが執務が溜まっているのですが。」


馬岱はそう言いながら盛大な溜息をはいた。


殿は・・・・あぁ、またお仕事探しですか?」

「もちろんじゃないですか!」

「いつもお客さんにはお仕事させられないって言ってるでしょう?」

「お客さんじゃありません。只の居候です。」


こんな会話はもう日常茶飯事となりつつある。


「居候でも駄目です・・・・・・・・・・・あ、そうです!」


馬岱は難しい顔からパッと顔を変え、ニコニコと笑いかけてきた。
何だか、これから言う言葉を予想できる気がする。


殿に仕事、です。従兄上を見つけて此処まで引っ張ってきてください!」


やっぱり。


「それってお仕事って言うんですか?」

「言いますよ!さぁさぁ、お願いしますね!」


馬岱は爽やかにを送り出す。
もしぶしぶだが承諾し、馬超探しを再開した。


本当は掃除とか洗濯とか、そういうのを期待していたのだけれどな。













「いないなー。」


それからしばらく。
は厩や馬超の寝室、また女中さんの部屋まで隅々まで探したのだが、
目的の彼は見つからなかった。


「もしかして入れ違いで、今まで見てきた所にいるとか。」


もう本当に探すところがなくなったので、
先ほど探したところをもう一度見て周ろうとしたその時。


「あ。」

「お?」


が歩いていた横にあった扉から探していた彼が出てきたのだった。



「・・・何してんですか?」


しかも出てきたのは、が使わせてもらっている寝室ときた。
・・・灯台下暗し!!!!


「や、を探していたんだが、見つからなくてな。
仕方なくの部屋で待っていたのだが、なかなか戻ってこないから、
再び探しに出ようかと部屋を出ようとした所だ。」

「入れ違いですか!丁度私も馬超さんを探してたんです。
・・・ってそうだった!馬超さん!お仕事あるって聞きましたけど!」

「げ、何で知ってるんだよ。あいつか。岱か。」

「そうですよ!馬超さんをお仕事部屋へ連れて行く!これが私の初仕事なんですから!」

「は!?ちっ余計なことして・・・・・・・・・。執務よりも、お前に用事があってな、
お前の仕事遂行はその後にしてくれないか。」

そう言いながら馬超は部屋にを招きいれる。
招き入れると言っても、が使わせてもらっている寝室であるが。







「で、話って何ですか?」

「まぁ、そう急かすなよ。とりあえず座れ。」


そう言ってを椅子に座らせた馬超は、自分もその向かい側に座る。


「最近、どうだ?」

「ん、此処の生活も慣れてきましたし、皆さんにも良くしてもらっています。
ただ、何か仕事ください。そうじゃないと私」

「ただ飯食らいになっちゃう、だろ?わかった。それは耳にたこが出来るくらい聞いている。
それは・・・そうだな。香蘭にでも頼んでおくが。そうじゃなくてだな。」


馬超は少し悩むような顔をして、頭をガシガシとかいた。



「・・・やっぱり、自分の国へ帰りたいか?」


馬超さんの質問に少しドキリとしたが、小さく頷いておいた。
帰りたいかと聞かれると、それはもちろん帰りたいに決まっている。
しかしだ。
私はまだ馬超さんに恩返しができていない。
恩返しをしないで帰る気はなかった。


「日本といったか?一応調べてはみたのだが、どうにも見つからないのだ。」


それはそうでしょう。
そう答えたいがぐっと我慢する。
「異世界から来た」なんて言って、話をややこしくさせたくないし、
頭がおかしい奴と思われたくもなかった。


「そこで、だ。蜀にはな、諸葛亮という軍師がいる。
その軍師殿に聞けば何か解るかもしれないと思ってな。
どうだ、会って聞いてみるか?」


馬超はの目をじっと見据えて言った。

これは思いもよらない言葉だった。
あの、諸葛亮さんに会える!?マジで!?
は激しく首を上下させ、馬超に是非、という答えをした。


「ま、軍師殿も忙しい男だ。会えるかどうかはまだ解らんし、
会えても2・3週間は待たねばならん。しかし、彼は異国の文化などに大変興味がある
と言っているのを聞いたことがある。きっと会ってくれるだろうさ。」


馬超はそう言って立ち上がると、の頭にポンポンと手をのせた。



でも、どうして。
私、迷惑ばっかりかけているのに。




「何でそこまでしてくれるのかって顔しているな。」

「え。」


眉にしわを寄せて机を見つめていたは、その言葉ではっと馬超に顔を向けた。
それに対し、馬超は軽くしゃがんでと目線を合わせ、くすりと笑った。


「ただ、お前に笑っていて欲しい。それだけだ。」


は大きく目を見開いて、口をポカリと開けた。
馬超はそれに対してさらに笑い、今度はの耳元に顔を近づけ。


「泣きたい時はいつでも来い。」


そう言ったかと思うと、ちゅっと音を立ててから足早に部屋から出て行ってしまった。









「・・・・・・・・。」




え、ちゅっ?今ちゅっていった?????




状況を把握したは耳を押さえて真っ赤になり、口を金魚のようにぱくぱくと動かした。

何?今の何??

心臓は激しく動いているし、力は抜けて椅子にだらりと背を預けている。







「馬超のたらしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!」



しばらくそこから動けなかったのは言うまでも無い。













「おい、たらしって・・・。」


馬超は先ほど出てきた部屋から聞こえた言葉に、思わず溜息を吐いた。

俺も此処までしてやるなんて、どうかしていると思った。
しかし、毎日毎日一生懸命生きているあいつを見ているとどうにも幸せな気分になるし、
岱と喋っている所を見ると、何だかイライラする。
・・・・・・どうやら、この俺はのことが好きでたまらないらしい。最近気がついた。
もしかしたら一目ぼれとかいうやつなのかもしれない。

そんなを見ていると解る。
朝はいつも目を腫らして起きてくるし、たまにぼぅっとして何か考えていることも多い。
元気そうに見えても、やはり故郷が恋しいらしい。
故郷や家族を無くした俺には痛いほど解る。
できればあいつをここに留めたい。
しかし、あんなを見ているのは辛かった。


「まいったな。錦馬超とも言われる俺があんな小娘一人に骨抜きだ。」


馬超は一人苦笑すると、廊下を歩き出した。

あいつにも馬の乗り方を教えてやろうか。
確か乗れないと言っていたな。
ふと、そう思いつき厩に足を向けた。









「あ〜に〜う〜えっ♪」


・・・何やら背中から冷たい空気が流れてくる。
厩へと歩いていた足はピタリと止まる。
しまった。今日は仕事をサボって抜け出していたんだった。


「岱・・・・・。」


馬超は顔をサッと青くする。


「探しましたよ。さぁ、何をするかお解かりですよね?」

「う、今日は厩で」
「従兄上?」

「・・・・・・はい。」



最近、の所へ遊びに行ったり、日本について調べてばかりいたので、
仕事は溜まりに溜まっている。
に馬の乗り方を教えるのはまた後、か。











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やっちゃった!
書いてるうちにこんなことに;
何するんだ馬超!!!!
あ、ちなみに、馬超さんがちゅってやったのは耳の付け根付近でござる。
・・・逆にエロい。


そして、馬岱黒属性決定(爆)
馬超相手の時限定黒属性であってほしい。



08.04.15