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あれは何時もと同じ、本当に平凡な日。
*始まりは黒い馬*
「いってきまーっす!!!」
今日は、久しぶりに会う友達と遊びに行く。
自然とスキップしてしまいそうなそんな気分。
服装だって、相手は女友達だけれどオシャレしてしまうもの。
玄関で靴を履いた後、はうきうきしがら玄関の戸を開けた。
すぐさま閉めた。
「・・・何?」
今のでうきうき気分はどこかへ飛んでいった。
何だ。
さっきのは何だ。
玄関開けたら二分で御飯・・・じゃなくて、
玄関開けたら何かと目が合った。
もう一度開けてみなくたって解る。夢じゃない。
だって玄関の扉のすりガラスに映っている。
真っ黒な大きな物体が。
「・・・・・・・・・。」
生憎今日は家族はいない。
さっき「いってきます」を言ったのだって癖で言っただけだ。
は恐る恐る、もう一度扉を開けた。
やっぱりいる。
こっちを見つめている。
馬が。
馬とはしばしの間見つめ合っていた。
馬はどう思っているかはいざ知らず、
が恋愛感情のこもった目で見つめている訳ではないことは確かだった。
「なに、馬て。誰かの飼い馬!?飼い主!飼い主は!?」
は背中に冷や汗を感じながら、なんとか馬の横をすり抜けてとりあえず家から脱出した。
馬って近くで見ると意外とでかい。しかも威圧感のある黒馬だ。
すり抜けるのにはかなりの恐怖だった。
「どうしよう。」
このまま遊びに行くこともできるのだが、どうしてこの馬を放っておけようか。
「お前、どこから来たの?」
少し声をかけてやると、馬はに擦り寄ってきた。
はじめは噛まれたり体当たりされやしないかと怖かったが、
何だ。意外と可愛い奴。
「鞍がついているってことは、やっぱ飼い馬だよね・・・?」
は、答えが返ってこないということは解っていたが、馬の顔をじっと見つめた。
「あれ、あんた目が青いね・・・・綺麗。馬の目って黒だと思ってた。」
何かと馬に喋りかけてみたが、やはり反応がなかった。
さて、どうしたものか。
馬なんて、どう扱ったら良いかわからない。
無双のように軽く乗れたら良いのに。
はそんなことを思いながら馬の背中を見つめた。
「そういえば、ついこの前テレビで馬の乗り方をやっていたな。」
そう思ったが最後だ。
は、馬に乗ってみたいという思いがふつふつと湧いてきた。
「乗ったら駄目だよね、さすがに。」
そう思うが、の手は勝手に馬の背中へと伸びてしまう。
どうやら馬も大人しい性格のようで、嫌がることはしなかった。
「おおおおお!さわっちゃった!馬にさわっちゃった!」
は大興奮し、今度はしっかりとその手でなでる。
その身体は思ったよりも温かかった。
何か癖になりそう、なんて思いつつなで続けているうちに
馬が段々自分の方へ近づいてきていることに気がついた。
「お?何?あんまり近づいてこられると、私潰されちゃうんだけど。」
の背中には自分の家の壁がある。
こう、ぐいぐいこちらに近づいてこられたら挟まってしまうではないか。
「ちょ、だからはさまっちゃう!!!何?私に乗ってほしいとか!?」
そう言ったが最後、馬はぴたりと止まった。
「え?マジ・・・?乗れってか??」
馬はもちろん返事をすることはないが、その青い目をちらりと此方に向けた。
「うううん、そんなに誘惑しないでおくれよ。・・・いいの?本当に?乗っちゃうよ??」
どうやらは馬からの視線を「乗れ」と解釈したようだ。
こうなったらもう誰も止める者などいやしない。
はキョロキョロと周りを見渡し、誰もいないのを確認して、
馬の背に手をかけた。
「えぇと、どうだったけ。馬に乗るのって。
ここに足かけていいのかな?うぇっ意外と高い!」
がもたもたしていたことに痺れを切らしたのか、
馬はぶるるんと息を噴出し、前足を踏み鳴らす。
「ごめん!ちょっと待ってね!動いちゃ駄目よ!
私まだ中途半端な体制な・・・うにゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
哀れさん。
中途半端な体制のまま、黒馬くんは発進してしまいました。
「ちょっっ!?無理っ!!!ぐぇ!」
どうやらしゃべるのもままならない様子。
は只、振り落とされないようにひたすら馬の背中を掴むことしかできなかった。
それは何とも滑稽な姿であったが、幸か不幸か、周りに人はいなかった。
「ぱんつ!ぱんつ丸見えぇぇぇ!」
スカートをはいていた事に後悔しても後の祭り。
そんなのお間抜けな声は遠くの方へ消えていった。
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なんてお間抜けな乗り方・・・!
絶対落馬する!
ギャグなのかどうなのか、なんだか解らないものに。
08.04.15