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泣いても、泣いても。



想いはつのるばかりで。







*心機一転*







雨はもうすっかり止んでいて、木の葉に溜まった水がぽつぽつと落ちてくる。
少女は木の根元にしゃがみ込んでおり、それを心配そうに青い目で眺める黒馬がいた。
木と木の間からちらりと見える空は、もうオレンジから紫に変わっている。



そんな時、今までピクリともしなかった少女がゆっくりと顔を上げた。




「私は、帰らない。どちらにも帰らない。」




声は小さくて弱弱しいが、何かを決心したように少女が呟いた。
そして彼女はしゃがんでいた体を起こし、グッと拳を握った。



暫く泣いて、考えた末、が出した結論はこれだった。






「どっちにしろ、王蒼が私を元の世界に送り届けられるかなんて、解らないんだし。」


はお尻についた土を払い落としながら、馬に語るように言った。


彼女の言うとおり、彼女は先ほど、試しにもう一度王蒼に乗ってみたのだ。
結果、馬はキョトンとするだけで何も起こらなかった。
走らせてみても、景色は森ばかりで、何も変わるところはない。
本当に彼がこちらの世界へを連れてきたのかさえ、嘘のように感じてくる。





もし、今帰ると決めたって帰り方が解らない。

それに。
今帰っても、きっと泣いてばかりだ。

それならば・・・。









「そうと決まれば、まず町か村を見つけて働かなきゃ。
 仕事が見つかるまでは、この手帳や着ている物を売ったら
 ちょっとはお金になるかもだし・・・。」


この服の素材は多分この世界ではまだ無いだろうし、
手帳の紙はこの時代貴重なものだと聞いたことがあった。

現代の服とそのポケットに入っていた手帳は唯一この世界に
持ってきたものだし、思い入れも強い。
だけど、一銭も無い状態でそんな事は行っていられない。
こんな小さなものでどれだけお金になるかは解らないが、モノは良いはずだ。
働くなんて、簡単にはいかない事は解っているが、この森でじっとしていても仕方がない。



暫く泣いていたは、どこか吹っ切れたのか。
目に光が戻っていた。




「お金が溜まったら、何か馬超さんに送ろうかな。
 それに、今は王蒼がいないと心細いけど、この子もいつかは帰さなきゃいけないし。」


そうしたら、今度は自分の世界に帰る手段を探そう。
黄天の奇跡がある時代なんだからどうにかなるだろう、なんて気持ちにもなってきた。


「うん、そうしよう!なんか元気でてきた!
 雨も止んだし、まず森を出なきゃ真っ暗になっちゃう。」


彼女は両頬をぱしっと叩くと表情を引き締めた。
そしてぐっと拳を握り締め、王蒼に乗ろうとした。




が。







ぐぅううううううううううう






自分のお腹から出た音が、周りに響くのを聞いた。


「・・・・何か、誰もいないけど、恥ずかしい。」


何でこんなシリアスなシーンに限って、
普段は鳴らないお腹が盛大に鳴るのだろうか。
は引き締めていた表情をへにゃりとくずした。


「お腹すいたなぁ。この草とか食べれないかな。あ、キノコ。」


さっきまではお腹がすいたことにも気がつかなかったが、
気がついてしまえば、周りのものは全部食べてしまえるような気になってくる。
・・・キノコは流石にやばいだろうが。
いやいや、背に腹は変えられないか?


「何か実とかなってないかなぁ。」


は生えていた土まみれの妖しいキノコから目を離し、今度は上を見渡し始めた。

実際実のなっている木なんて、ほとんどないんだろうけど。
はあきらめたように溜息を吐いたが、ふと遠くを見つめた先には。


「て、嘘。あるじゃん。」


暗い森の中で、赤い丸がぽつぽつと浮かんでいる。
良く見ると、それは小さな木についているようだ。


「花、じゃないよね。」


それは、少し歩かなければいけない場所に生えていたが、見に行く価値はあるだろう。
何せお腹はぺこぺこだ。

は王蒼に「ちょっと待ってて」と声を掛けると草を掻き分けて進んで行った。
こんなに草がぼうぼうで木の根や木の枝が邪魔をする道も、もう慣れた。
手足にはかすり傷や泥でいっぱいだったが、そんなことは気にしていられない。

は疲れた足を叱咤して、赤い木の実を目指した。






「あ、思ったより遠い「ちゃん!!」へ!?」


必死で足を動かしていると、後ろから自分の名を呼ぶ
見知らぬ子供のような声が聞こえたと共に、足元がずるりと滑った。

ガクンと身体全体が下へ引っ張られる。



一瞬見えたその足元に道はなく、私はその場から姿を消した。










草で、見えなかったそこにあったのは、

落ちたら確実に怪我をするような高さの、



崖。









はその自分の名を呼んだ声の主を確認することなく、意識を手放した。







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やっと更新できたと思ったら。


ヒロインさん、一難去ってまた一難・・・。
丞相に問い詰められるし、姜維に聞かれるし、
馬超からは帰れなんて言われて、飛び出してびちょびちょになったあげく、
心機一転、気を引き締めたと思ったら崖から転落・・・。
こういうの苦手な人すみません;

さてさて、色々と謎はありますが・・・どうなることやら。

08.08.02