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馬超さん



こんにちは、突然のお手紙で失礼いたします。
口で言うのが照れくさいこともあり、
今回はこのような文字という形で伝えたいことがあります。
この手紙を、私がいつ馬超さんに渡すのかは書いている今はわかりませんが、
この気持ちはいつになろうとも変わりません。
「ありがとうございます。」
気絶して彷徨っていた私を見つけてくれたのは、馬超さん。
家に連れ帰って、看病してくれたのも、馬超さんのお蔭。
それに、体調が治っても、私を追い出さずに邸に置いてくださるのも馬超さん。
知り合いもいなく、知らない土地でひとりぼっちの私にとって、
それがどんなに嬉しかったことか。感謝してもしきれません。
この恩はすぐにでも返したいのですが、
あいにく、私にはその良い方法が思いつかないのです。
だから、せめて、この手紙で感謝の気持ちも伝えたかったのです。
私は、恩返しができるまで、自分の国には帰らないでいるつもりです。
邸に居させてもらうことも迷惑だと思いますが、どうか私の気がすむまで、
馬超さんのそばに居させてください。
恩返しと言っても、まだ何ができるかもわかりませんが、
きっときっと、馬超さんのために何かしようと思います。
今回はその前に、私のありがとうという気持ちを伝えたくてこの手紙を書きました。
口で伝える勇気がなくてごめんなさい。

ありがとう。












そして、その下には「そして、これからもう少し、よろしくお願いします。」
という意味の言葉が消された跡があった。








*帰りたい処*









「ふぅ。」


今、は雨を避けるために森の中にいた。
雨はまだ大いに降っており、森の木々が傘の代わりをしてくれている。

さすがに、木々の連なる森の中を慣れない馬で駆けることはできなくて、
彼女は王蒼の背中から降り、代わりに手綱を引きながら歩いていた。
思いの他、森の奥まで入ってしまったようで、天候と時間のせいもあって辺りは真っ暗。


「これから、どうしようかな・・・。」


雨に濡れて全身ビショビショで、もう自分が泣いているのかさえ解らない。
もともと暗い森の中は、時間がたつにつれて、さらに暗くなっていく。


「王蒼、連れてきちゃった・・・。」


は歩くのを止め、王蒼の鼻先を撫でた。


迷惑かけないように考えていたけど、この子はどうしても連れてきてしまった。
この世界と自分の世界を結ぶのはこの子だけかもしれないから。




「ねぇ、王蒼は私を家へ連れて行ってくれることができるの?」


そう言って、今度は王蒼の首元を撫でると、
彼はの言葉を理解したように彼女の服の袖を噛んで引っ張った。

それが、馬超さんの家に帰ろうと言っているみたいで。



「違うよ、私の家は、馬超さんの邸じゃなくて。」



それを言うだけで、またの目からは涙が溢れてきた。
大粒の涙がぽたりぽたりと濡れた地面に落ちる。
王蒼はを引っ張るのをやめて、心配そうに彼女を覗き込んだ。







家族だと言ってくれた馬超さん。



出て行けと言った馬超さん。









「・・・・帰りたい。」








こんなに悲しくても、こんなに寂しくても、出てくるのは馬超さんの事ばっかり。
不思議なことに、もとの世界の家族や友達の顔は浮かんでこなくて、
帰りたいと願う先は馬超さんの邸だった。











「馬超さんのところに帰りたいっ。」












どうしたらいい。




私はどうしたい。




私は帰るの?




帰れるの?





私の居場所は、何処ですか?





























「何だ、よ、これ。」


馬超はの部屋にあった書簡をグッと握った。

何故、「よろしくお願いします」が消してある。
恩返しをするまで帰らないと、この書簡にはっきりと書いてあるのに。




「まだ、俺は何も伝えていない。真実だって聞いてはいない。」



馬超は俯いていた顔を上げて、前を見据えた。


探しに行かなければ。






しかし、本当にはどこへ行ったのだろうか?
まさか、自分の世界へ帰ってしまったのか。
それなら、どうやって。




「・・・王蒼か!」




そうだ。が俺と出会った時、彼女は王蒼に乗っていたし、彼の目は「青い」。







俺は書簡を懐にしまうと厩へと急いだ。



どうか、まだそこに王蒼がいることを祈って。










しかしその祈りは虚しく、
厩にいるのは、栗毛や白馬。
真っ黒で吸い込まれるような、澄んだ蒼い目をした馬はいなかった。








王蒼はああ見えて気難しい。


彼が背中に乗せるのは、馬超か馬岱。
そして、この世界へ連れてきたときに乗っていた
馬岱はまだ城に居る。
証拠に、馬岱の馬は厩にはなかった。



しか、いないじゃないか。」



もう、彼女は自分の世界に帰ったかもしれない。



でも。


「諦めるはず、ないだろう!」



馬超は栗毛の愛馬に飛び乗ると、まだ雨がぽつぽつと残っている空の下へ駆け出した。



まだ、彼女らがこの世界にいることを願って。









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ちょっとだらだらしちゃいましたかね?


冒頭の手紙は、姜維と趙雲に手伝ってもらって書いたアレです。
まだ敬語です。

さて、まだダラダラいきますよーー;

08.07.14