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姜維が部屋の前にいることは解っていましたが。

こうでもしないと、誰にも話さないのでしょう?


あなた一人で抱え込むことは無いと思いますよ?殿。







*残酷な言葉*







「・・・もう、聞いちゃったものはしょうがないですけど。
 まだ馬超さんには秘密ですよ。」


今、は姜維と並んで城内を歩いていた。
と言うのも、もう諸葛亮さんとの対談も終わり、馬超さんの所に行こうとしたのだが
場所が解らなく、この隣を歩くポニーテールの青年に案内してもらっているのだ。
もちろん、姜維には他に仕事があって、申し訳ないので道だけ聞こうとしたのだが、
どうやらそれは私の頭では理解できなかったようで。
しかたなく、大人しく姜維さんに案内してもらうこととなったのだ。

姜維の言う「他の仕事」である「書庫に行く」用事に付き合ってから馬超の所に行く、
という事は補足として言っておこう。




そして今は、その書庫から馬超の部屋へ向かう道すがら。







「書庫は埃だらけでしたね。すみません。」


そう言って、姜維は隣に歩いているの頭についていた埃を取った。


「でも、沢山書簡などが置いてあって、見ているだけでワクワクしましたよ!」

「それなら良かったです。」


書庫は壁という壁に書簡や資料のようなものが積み上げられており、圧倒された。
是非とも、一度漁ってみたいものだ。
・・・今日は姜維がいたから自重したが。


「はい、私、まだこの世界に来て日が浅いので、色々見て周りたいんです。
 知らないものばかりで凄く楽しい!」


そんなキラキラした目をしたを見て、姜維は頬を緩ませた。


「それなら、私が色々なところへ連れて行ってあげますよ。
 その代わり、私にも殿の世界の話、沢山聞かせてくださいね。」


二人はニッコリと笑いあった。
廊下から見える庭は日の光が射していて、まるで二人の心の中を表しているようだった。



自分の事を知ってくれている人が居る。
それがどんなに嬉しいことか、今実感できる。
さっきまでは言うことに躊躇する気持ちもあったけど。


・・・今は、早く馬超さんにも自分の事を話したい・・・。















「あそこに見えるのが、馬超殿の執務室です。」

庭が見える廊下から少しして、扉が沢山並んでいる所に出た。
どうやら皆の執務室があるエリアらしい。
その中の姜維が指差すのが馬超の執務室。


はその扉にノックをして、返事も待たずに扉を開けた。


「馬超さーん!終わった・・・ってあれ?岱さんだけ?」


元気良く入ったは良いが、そこにいるのは、少しポカンとした顔をした馬岱だけである。
馬岱は執務中だったようで、筆を止めて顔をこちらに向けていた。


「馬超さんは?」

「従兄上なら、先ほど殿を迎えに出て行かれましたが、会いませんでしたか?」


その言葉を聞いて、姜維とは顔を見合わせて、首を横にふるふるを振った。


「私達書庫に寄ってたから・・・すれ違っちゃったかなぁ?」

「その辺探して着ましょうか?・・・って、あ、馬超殿!」


姜維は馬超を探しに部屋を出ようとしたが、それは意味が無かったようだ。
廊下の向こうから、馬超が歩いてくるのが見える。



「噂をすればなんとやら、ですね。」



姜維は自分の隣まで歩いてきた馬超に笑いかけるが、馬超は何の反応も示さなかった。
それに対し、おや、と首を傾げるが、特に何かを言うことはしなかった。
そんなことには気が付かないは、
部屋に入ってきた馬超を見て嬉しそうに笑って近づく。

はやく、馬超さんに全ての事を話してしまいたい。

そんな気持ちが彼女を不安にも、笑顔にもさせる。
前へ前へと進ませる。













「馬超さん、「軍師殿はに聞けと。」


は馬超に、いつ邸に帰るのかを聞きたかったが、それは馬超に遮られてしまった。
その馬超の声がいつもより低く感じ、
はどうしたのだろうかと馬超の顔を凝視した。




彼は、無表情。




馬超の隣に居る姜維は少し焦ったような顔をしたし、馬岱は怪訝な顔をした。
も始めは馬超の表情に気をとられて、何のことを言われたのかさっぱり解らなかったし、
いきなりその質問をされるなんて考えていなかったので、少し固まった。
そして、ニコリとも笑ってくれないでまっすぐに自分を見据えてくる馬超が少し怖いとも思った。



「・・・国は・・・わからないって。」


そんな、無表情の馬超を目の前に、必死になって出した声は少々掠れていた。

話の内容はが未来から来たという話。
そのことは二人になってから話したかったので、
馬岱と姜維をチラリと見やる。


「・・・・。」

「でも、調べておいてくれるって。・・・それで・・・っ!?」


が言葉を濁しても馬超は何の反応も示さなかったので、
二人で話したいということを伝えようと思ったら、
彼女はいきなり馬超に腕を掴まれ、ひっぱられて馬超の部屋を出るはめになった。
後ろでは姜維と馬岱が何か言っているが、馬超は止まろうとも振り向こうともしない。
只、の腕を掴んで早足に歩いていく。



「馬超さん!?」


言っても返事は返ってこない。


「腕痛い!!」

「・・・帰るぞ。」


腕の痛みを訴えても、掴む力は変わらなかったが、一言、それだけ返事が返ってきた。
本当に、どうしたのだというのだろうか。


「馬超さん、何なの!?」

「・・・・。」


やはりそれから馬超は一言も喋らない。
そして、ひっぱられて着いた場所は厩で、無言・無表情は続いたまま、
馬に、行きと同じで馬超さんの前に乗せられた。


馬に乗ってしまえば、揺れに慣れていないはあまり喋ることができなくなり、
彼女も黙り込む他なかった






体全体が鉛のようで、不安だけが自身を包んでいく。





耳には馬の走る音と風の鳴る音しか聞こえない。










馬超、さん。








もしかして、







諸葛亮さんから聞いてしまった?









得体の知れない女だと、思われてしまった?







もう、サヨナラ?















馬超の邸に着いた時、馬に乗ってからから何時間もたったのではないかと感じた。
馬から降りた馬超さんは私の手を引くでもなく、一人でスタスタと歩いて行く。
ついて来いとも何とも言われていなかったが、私はこの状態をなんとかしたくて、
必死に早足の馬超さんについて行った。

もう、私から声は怖くてかけられなかった。




視界は少しぼやけてきて、

溢れそうになる涙。



それでも馬超さんはスタスタと足早に歩く。










嫌われるのはもちろん悲しいけれど、





せめて、






私の口から伝えたい。







彼方に隠していました。と。











馬超がそのまま部屋に入ってしまい、扉まで閉めようとしたので、
は慌てて馬超の部屋に飛びこんで、それを拒んだ。



「待って、馬超さん!」


扉を閉めることができなかった馬超は眉を寄せた。
しかし、そんな顔をする馬超に、は懸命に話をしようと口を開いた。







「馬超さんっ!話を「・・・出て行ってくれないか。」








必死に馬超の部屋の扉を閉めないようにがんばっていたの耳に、馬超の口から発せられた信じられない言葉が入ってきた。






今、なんて言った・・・・?






「出て行って、くれないか。」










もう一度紡ぎ出される、ひどく残酷な言葉。

目の前の景色が全て見えなくなった気がした。



どうして。


・・・どうして?





体は動かすことを止め、頭はぐちゃぐちゃとその中身がかき回される。


















今まで私がここに居ることができたのは、彼方が拒絶しなかったから。




私が此処で生きることができたのは、彼方が向かえてくれたから。







それが、無くなった私はどうすればいいですか。














「・・・・・・・・さよなら・・・・です、ね。」











ひどく、世界が悲しいものに感じた。











精一杯搾り出した私の声は彼に聞こえていたのだろうか。

精一杯の別れの言葉。





私は、走って馬超さんの部屋から出て行った。











「出て行け」と言った彼の顔を見ることはできなかった。












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心理戦が終わったと思ったらもう一波乱??

ちょっと立て続けに話進めすぎたかしら??


何故かいきなり態度が変わった馬超さん。それは何故?
これから終わりに向けてシリアス一直線・・・かな?

08.06.24