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「・・・殿は違う時間・・・いいえ、違う世界から来たのではないですか?」

「え!?」






*白状の時*






心臓が急に大きく鳴ったのがわかった。


諸葛亮。彼方は、いったい。




「な・・・ぜ、そう思われるのですか。」


は、「そうです。」と言いそうになるのを、ぐっと飲み込んで諸葛亮に問い返した。
手や脇は汗でびっしょりだ。

今の会話から、私が違う世界から来たという文脈はあっただろうか?
いや、私が考えるかぎり、無かったはずだ。
彼は何故そのような考えに行き着いたのか。
はたまた、トリップストーリーでお馴染みの「予言の書」でもあるというのだろうか。

はじっと目の前の男の目を見つめた。
見つめられた男は動じる事なく、自分の考えを述べ始める。



「蒼馬(そうま)、という妖怪はご存知でしょうか?」

「妖怪・・・?いいえ。知りません。」


いきなりの話では眉を寄せた。
彼の口から発せられたのは、意外にも、浮世離れしたものだったからだ。


「全身が真っ青の馬です。次元も時間も関係なく走り回るという言い伝えがあります。」

「次元も時間も?」

「はい。もし、殿のおっしゃっている事が本当ならば、貴女は時間や次元を越えて来た。
 そうは考えられませんか?それに、馬超殿の馬。」


まさか、そんなことだけで、自分が異世界から来たという考えにたどり着いたのか?

は戸惑いながらも、馬超の馬・・・王蒼のことを思い出す。


「王蒼が・・・蒼馬・・・・。それに、目が青い。」

「はい。青い目の馬は存在しますが、王蒼は特に青い目が印象的だと。
 殿、貴女が話してくださいました。」


そうだ。
私がこの世界に来たときの不可解要素はなんといっても王蒼。
彼がこの世界に私を連れてきたと考えてはいた。


でも。


「諸葛亮さんは、その言い伝えを信じるのですか?」


は諸葛亮の真意を読み取ろうと、必死に彼の目を見る。


「信じなければ、殿が嘘つきということになりますね。」


しかし諸葛亮はそんなの視線をものともせず、
羽扇を揺らめかせながら、さらりと言い返したのだった。



しばし固まっただが、そんな風な彼に毒気を抜かれたのか、
くすくすと笑いだし、観念したように一つ溜息をはいた。




「・・・・はぁ。参りました。諸葛亮さんには適いません。」





「解りましたよ。白状します。」





流石は世紀の大軍師。

彼に隠し事をするには、まだまだ早かったようだ。



















「では、殿はやはり未来から?」


諸葛亮はトレードマークの白い羽をはためかせ、ゆったりとの話を聞いていた。


「んん、そうですね・・・未来と言えば未来なのですが、ちょっと違うかもしれません。」


も全て話してしまうと決断したようで、
先ほどまでの蒼白だった顔色は大分良くなり、水をすすりながら話していた。


「私が居たのは今から約2000年くらい先の未来だと思います。
 あまり詳しくは解らないですが。」


それを言った時、羽に隠された彼の顔の大部分は見えなかったが、
確かに諸葛亮は驚いた顔をしていた。


「この時代の歴史は“三国志”と呼ばれ、人々の読み物として出回っています。
 もちろん、諸葛亮さんも蜀の大軍師として描かれていますよ。」


はこの時諸葛亮がどんな反応を示すかチラリと顔を覗きこんだが、
やはり顔は羽扇に隠れてあまり見えなかった。この時ばかりはこの羽扇が恨めしい。
ちょっとくらい照れるなり何なりしたらいいのに。

あんまり、が諸葛亮の顔を覗きこんでいたので、諸葛亮はじろりとを睨んだ。


「睨まなくてもいいじゃないですか。で、ご感想の程は?」


もちろん、後世まで自分の名前が残っている、という事についてである。


「・・・まぁ、ありえない話ではないでしょうね。」

「もう、すましてますねぇ。ま、それで、もちろん馬超さんの事も
三国志を読んで知っていたので、自分が未来から来たことを悟ったのですが・・・。」

「ですが?」


ずっと疑問だったこと。
此処が三国志に沿った世界か、そうでない世界か。
馬超さんの鎧等で無双の世界が混じっていることは解っていたのだが。



「失礼ですが、諸葛亮さん。劉備様は御健在ですか?」

「えぇ、もちろん。」


諸葛亮は、当然のように答えた。


なんとなく想像はついていたそれは、確信に変わった。


「となると、その私の知っている三国志とは歴史が合わないのです。
 姜維さん、いらっしゃいますよね?
 その姜維さんとは先日知り合ったのですが、
 彼と劉備様が同じ時代に蜀に生きているはずはないのです。」

「ということは、殿は未来ではなく、やはり異世界からいらっしゃたのですね。」

「はい、そう考えるのが自然です。」




正直、少し安心した。
未来を知っているとなれば、また此処での私の立場も変わってくると思うのだ。
でも、此処は異世界。
前の世界と同じで何が起こるかは解らない。
それが良いのか悪いのかは判断できないが、気が楽になったことは確かだった。







「・・・しかし、本当に信じてくださるのですか?」


でも、次の瞬間、また少し怖くなる。
一番の常識人だと思っていた彼だ。
信じてくれることは意外だった。
・・・本当に、信じるのだろうか?
この夢物語のような話を。



「そうですね。このような現実味のないものを信じるなんて、私自身も驚いています。
 しかしです、殿。貴女には何か違和感があります。
 それは行動であったり、言動であったり、わずかな所で、
 鋭い人にしか解らないかもしれませんが。
 その違和感が、信じてみようという気にさせるのです。
 それに、貴女は嘘をつけるような器用な方ではありませんよ。」


諸葛亮は「先ほど話していたとき、目が泳いでましたよ?」
と付け足して、優しく微笑んだ。



あぁ、本当に、この人には適わないなぁ。






暫く、信じてくれた嬉しさを噛み締めて、ほんのりと頬を緩めていただが、
まだ疑問であったところを質問することにした。




「その、蒼馬という妖怪について詳しく教えていただけませんか?」


諸葛亮もそれについては話そうと思っていたようで、直ぐに話始めた。


「先ほど言いましたように、蒼馬は時間と次元を渡ります。
 それはとても気まぐれで、会ったことのある人は殆ど居ないと言われていますので、
 本当の話かどうかは定かではありません。あくまでも、伝説上の生物です。」


現実ではありえないような話。
しかし、現に私はここに居る。


「でも、私は次元を渡った。馬に乗って。
 王蒼は実は『蒼馬』で、彼にこの世界へ連れてこられたという可能性は高い・・・
蒼馬は伝説なんかじゃなかった。本当に存在した。」

「そうですね。しかし、まだそうと断定するには早いですよ。
 解らないことが多すぎる。それに、伝説では
 蒼馬に触ると、人間の身体は蒼馬の時間の流れについて行けなくて
 消えてなくなると聞きました。
 もし、その話が本当なら、貴女は消えて無くなっているはずです。」

「そうですか。まだ解らないことばかりですね・・・。
 それに、王蒼は真っ青な馬でもありませんし。
 でも、世界を越えるなんて話はそうそうあるものではないですよね?
 だから、私が元の世界に帰るには今は王蒼に頼るほかないのです。」

「そうですね・・・。では、蒼馬についての資料を探しておきましょう。
 また何かありましたら、お知らせいたします。
 あなたは王蒼を観察してみてください。」


諸葛亮は穏やかな口調で言った。
にとって思ってもみない助けだ。
彼女は、まだこの世界に来て日が浅い。
頼る人も少ない中、このように諸葛亮が協力してくれるということは、大変有難いことだ。


「ありがとうございます!
 しかし・・・何故・・・諸葛亮さんは凄く忙しいのではないのですか?」

「それくらいの事、私に出来ないと御思いですか?
 それに何故、と?手伝う理由は知的好奇心が半分です・・・ね。」


諸葛亮はニヤリと頬をあげて答えた。


「後の半分は何なんですか。」


冗談めかして言ってくれる彼にとても感謝した。
不安がみるみる彼に吸い取られていっているような、そんな感覚。





「さて、今日話したことは馬超殿に言ってもよろしいのでしょうか?
 馬超殿に何か解れば教えてほしいと仰せつかっているのですが。」

「あ、ごまかされた。
 馬超さんには、まだ私が未来から来たことは言わないでほしいです。
 私から、ちゃんと言いたいんです。」

「そうですか。それなら殿に任せますよ。」


伝える決心は、有る。
拒絶されるか、笑い飛ばされるか。
そんな不安もあるけれど、馬超さんなら解ってくれる。
そんな変な自信が有った。

今日、邸まで帰ったら、感謝の気持ちを綴った書簡と一緒に、馬超さんに伝えよう。



「任していただいて、ありがとうございます。」


はコップの中の最後の水をぐいっと口に流し込む。




「いえ。それと、姜維。いつまでそこにいるのですか?入って来なさい。」


ごくり。




自然な流れで発せられた諸葛亮さんの言葉。
その言葉は、私の背後にある扉に向けられていて・・・。
・・・え?今何とおっしゃいましたか?丞相?



ピシリと固まったの後ろでは、きぃっと木のきしむ音が聞こえ、
人がゆっくり入ってくる気配がした。


「ば、ばれてましたか。」


入ってきたのは、顔なじみのポニーテール青年。
若干高い声が部屋の中に響く。


「げほっ!きょ、姜維さん!?いいい、何時からそこに!?」

「丞相は気配に敏感ですからね・・・適わないです。」


の質問をキレイにスルー。

文官のような衣装に身を包んだ彼の左手には、いくつかの書簡が抱えられていて、
反対の手は彼自信の頭をくしゃりとかいていた。
心なしか、ちょっと挙動不審だ。


「ちょっと、姜維さんってば!!」



「・・・すみません。結構始めの方から聞いていました。」




はぐらかそうとした青年だが、目の前にいる少女の剣幕に頭を垂れる。


「・・・・・・・・。」


少女の頬が引きつり、暫くの間、沈黙が続いたのだった。








馬超さんより、この人に先に知られてしまうとは。










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諸葛亮さんとの戦い敗北?(笑)

あー・・・ほんとに、文章って難しい。
会話だらけだし・・・。
どうやったらまとめられますかorz


意味・・・伝わってるかなぁ;
とりあえず、諸葛亮さんは青い目の馬でピンときたそうです。
しかし、事実はまだ解らない。そんな感じです。
とりあえず、諸葛亮さんは協力的。珍しいものを見て内心喜んでいる様子w


管理人の趣味で姜維が出張ってますw

08.06.10