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最終話








「私は、馬超さんの所へ帰ります。」








*私の帰る場所*








「何?」


蒼馬のを見る目は怪訝なものだった。
少し不機嫌にも見える。


「ですから、私の帰る所は馬超さんの所なんです。」


はきっぱりとそう言った。


「何故だ。奴はお前を拒んだ。」


その一言では、あぁやっぱりこの人は全部知っているんだ。
なんて少し他人事な気分になった。


「いいんです。彼が私を拒んだって、私は彼を拒みません。」

「答えになっていない。」


依然として、彼の目は鋭い。
はぐっと拳を作った。


「私が、彼と共にいたいだけなんです。
例え、一緒に過ごせなくても同じ世界にいたい。
近くにいなくても、彼の力になることはできる・・・
・・・つまりは、只、私が彼を忘れられないだけなんです。」


は自重ぎみに答え、目線を自分の手に落とす。


「元の世界に戻れなくなっても後悔するけど、戻ったって後悔する。
それなら、前に進める方がいいでしょう?」


もう一度蒼馬にあわせた彼女の目は、くもりなかった。


「親は・・・・・あちらの友は・・・・・どうするのだ。哀しくはないのか!」


冷静だった蒼馬の目は開き、彼は少し声を荒げた。


「一時の気持ちで動くな!小娘が!!」
「哀しくない訳ないじゃない!!!」


蒼馬の荒々しい声に周りの空気が振動した気がした。
彼の豹変振りに少し肩をびくつかせるが、
も負けないくらい声を張り上げ、蒼馬の言葉に自分の言葉をかぶせた。


「そうよ、私は何も知らない小娘よ!親の気も友の気も知らないで。知ったつもりで。
何も、知らない、解らないわ。だからこそ、自分で選ぶのよ!」


はこみ上げるものを押し込んで叫んだ。
森に聞こえるは彼女の荒々しい息遣いだけで、しだいに静寂に包まれた。





「・・・我は今しか手は貸さんぞ。」

「はい。」


今度の蒼馬の声は落ち着いたものだった。


「もう帰ることなどできんぞ。」

「解っています。」

「死んだって放って置く。」

「・・・・・結構です。」


蒼馬は目を細め、目の前の女を見据えた。
彼女は怯まずにこちらを睨み返してきた。





なんて、まっすぐな目をする。

心では悲しみでいっぱいだろうに。





「なぜ、人はこうも強い目をするのか。」


蒼馬は自分の口の中で呟いた。
その目は何か想いをはせているようにも見えた。


「ふ、変わらんな。」


蒼馬は溜息を吐いて表情を和らげ、それに対してはキョトンとする。


「へ?」

「少し熱くなってしまったか・・・・いや、それよりも、だ。来ているぞ。」

「え?何・・・・」


蒼馬が話を中断し、目線を私の目からその後ろへと飛ばした時、
背後の草がガサリと音を立てた。





!!!!」





心臓がドクリと波打つ。
聞き覚えのある声が聞こえた。
もう、名前を呼ばれることもないかもしれないと、
頭のすみでは覚悟していたのに。
それに、自分から会いに行こうと、さっき硬く決心したところなのに。

・・・出て行け、と言ったのは貴方なのに―――――――




「な、んで、」




はゆっくりと、少し怯えるようにして振り返った。
暗闇の中、月に照らされた銀色が見えた。
その隣には真っ青な二つの目が浮かんでいる。

なんで、なんで。

もう私はいらないのではなかったの?
何でそんなに泥だらけ?
何でそんなに安心したような目で見る?
・・・今から貴方の所に乗り込もうと思ったのに、
何で貴方が私を驚かせるの?



「無事で、良かった。」

「ば・・・ちょう・・・さん・・・?」


振り返った瞬間、どん、という衝撃と共に
私の目の前がもっと真っ暗になった。
それと同時に、肌寒かった自分の体が、温かく感じた。
・・・私、馬超さんに抱きしめられている?


「居なくなっていたら、帰っていたらどうしようかと・・・!」


馬超さんの安心したような、かすれた声が耳元で聞こえた。
未だ私は何が起こったのか解らないでいる。
ただ、だんだん馬超さんの腕に力が入ってきたから、
「い、痛い!」と呟いた。
しまったと思った時にはもう既に彼の体と私の体は離れており、
二人の間を風が通る。
・・・まだ離れたくないと思ったのに。


「す、すまない・・・そうだ、崖から落ちたと!怪我は!?」


私を抱きしめることをやめた馬超さんは、
今度は私の肩を掴んで目線を合わせた。
まだ混乱していて私はまだ上手く目を合わせることができない。


「そ、蒼馬さんが、手当てしてくれた。」


私は馬超さんの目に耐えられなくて、蒼馬さんを指差すと同時に、
蒼馬さんの方へ目をやった。


「・・・蒼馬?」

「父さん!!!!!」


馬超さんの怪訝そうな声が聞こえたが、それと同時に
いつか崖の上で聞こえたような、子供の声が夜の森に響き渡った。
そして何かが横を駆け抜ける。
それは爽快と蒼馬へ駆け寄った。


「王蒼か、久しいな。」


蒼馬が駆け寄ってきた黒い馬の頭をなでようと手を持ち上げたとき、
その黒い馬はぽんっと人型へ。


・・・・ぽんっと人型・・・・・・・・・・・・・!?





「「えええええええ王蒼!?」」





黒い馬が、後ろでお団子を結った、黒髪の子供に変身したのだ。
その目はもちろん青かった。
今までのシリアスな気分がどこかに吹き飛ぶほど驚き、
と馬超は目を見張った。

しかし、お馬な二人はそれを軽く無視。
そのまま二人は話を続けた。


「そうだ、王蒼。何を勝手なことをしている。
他の次元から人を連れてくるなんて。」


蒼馬の目が優しいものから厳しい父親の目に変わった。
・・・ような気がする。


「だ、駄目なのですか?」


それに比べて、王蒼は少し驚いたような反応を示した。


「あたりまえだろう!お前は考える力がないのか!
・・・と、そうか。今まで馬として生きてきたのだったな。
なに、そう黙り込むでない。お前も必死だったのだ。」


はじめは叱ろうとしたようだった蒼馬は何か思いついたように声を和らげ、
俯いていた王蒼の頭をそっと撫でた。


「父さん、知ってるの?」

「どうだろうな。」










「・・・何なんだ。」


会話に入っていけない馬超が少し呆れたように呟いた。


「なんかね、蒼馬は王蒼のお父さんなんだって。」

「ま、まぁ、それはちらりと聞いたが・・・。」


それに対する返答をして、は普通に喋れることにほっと胸を撫で下ろした。


「王蒼は蒼馬と人間との間の子だって。」

「は?」

「それで、息子である王蒼が勝手に私をこの世界に
連れてきたから、って蒼馬さんが・・・・・・・・ってあ、
馬超さん!私、ずっと黙っていたことがあって。実は――――
「違う世界から来た、だろう?」

「えっ?」


は会話の流れで自然に別の世界の話をしようとしていたことに気がつき、
慌てて馬超に報告し直そうとしたが、馬超がそれを遮った。
はポカンとする。


「何で知って?」

「・・・っ、すまん!実は、城内で姜維との会話を
聞いてしまって・・・だな・・・」


馬超はに対していきなり頭を下げた。
はまた目を丸くする。


「なんだ、さては嫉妬していたのか。
の大事な話を、自分ではない他の男が先に知っていたことに。
人の男は不器用だな。」

「・・・な!」


馬超との会話に、蒼馬がしれっとした態度で乱入してきた。
馬超はそれに、怒っているのか、羞恥を感じているのか、ほのかに顔を赤らめた。
だがそれは、幸いなことに真っ暗な中ではには見えなかった。


「で、でもでも!馬超さん出て行けって!」


は混乱したように、馬超に言葉を投げた。


「あぁ・・・・あれは・・・・嫉妬でひどいこと言ってしまいそうだったから、
部屋から出て行ってくれという意味で・・・。」

「それであんな酷い言葉を口にしたのか。」

「な!貴様は関係ないだろう!」

「ちょっと父さん黙って!」


今度は王蒼まで会話に加わって、だんだん収集が着かなくなってきている。
しかし、だけは一人俯いて黙り込んだ。
馬超はそれに気がつかず、蒼馬にくってかかっている。


「じゃぁ、」


俯いたままのの、ポソリと呟いた言葉に、
一同は動きを止めて彼女に目を向ける。


「じゃぁ・・・私はまた帰ってもいいの?」

「馬超さんの家に帰っていいの?」



「・・・っ、あぁ、良いも何も、俺達と、お前の家だ。」

「っ!」


月が見下ろす空の下、
顔を勢い良く上げたはそのまま馬超に飛びついた。
馬超はそれを難なく受け止め、彼女の背中に手を回した。
一瞬見えた彼女の顔は涙で濡れていて、今でも腕の中で小刻みに震えている。


「馬超さんのばかぁ・・・!」

「すまなかった。」

「ばかちょうぅーーー!」

「・・・;」

「もう、本当に会えなくなるのかと思ったんだから・・・!」

「すまなかった・・・・また戻ってきてくれて、ありがとう。」


彼女はしばらく馬超の胸の中で泣いていた。
彼の服の端をしっかり掴んで。











「では、もう我は必要ないな。」


が泣きはらして、目を赤くした頃、蒼馬が待っていたかのように言った。
を見る蒼い彼の目は優しいものだった。


「もう、本当に帰れぬぞ。」

「後悔は、するかもしれないけれど、今帰るともっと後悔します。」


再度、聞いてくれる彼は、本当は凄く優しいのかもしれない。
しかし、返答はわかっていたようで、彼の返事は、そうか、の一言だった。


「父さん、もう行っちゃうの?」

「あぁ。今日はお前の尻拭いに来ただけだ。馬鹿息子。」

「!?」

そんな中、王蒼は寂しそうに蒼馬の裾を引いた。
王蒼はまだまだ子供なのである。
しかし、そんな王蒼に向けての蒼馬の言葉は少々痛烈だ。


「お前はもっと考えることを覚えるのだな。さもないと、本当の馬になるぞ。」

「・・・。」

「何、今度はお前が私に会いに来い。蒼馬の寿命は長いのだ。」


そんな父の言葉を聞いて、今度は王蒼が蒼馬の胸に顔をうずめた。







「じゃぁ、帰ろう・・・。」


もう朝になるのか、空が白んできた頃、が落ち着いた声で言った。


「・・・本当に、お前は元の世界へ帰らないでいいのか。」


今度は馬超が聞いてきた。
その顔は少し辛そうで、もしかしたら彼は、自分のせいでが、
彼女の家族にもう会えなくなると自分を責めているのかもしれない。


「うん。もう、決めた。ちゃんと考えて、決めたことだから。
馬超さんが嫌がってもここにいる。」

「本当に、」

「うん。」

「・・・俺は昔、家族を失った。家族がいなくなるのは・・・辛い。」


馬超の眉間に皺がよる。
しかし、彼女は微笑んで答えた。


「ううん。私の家族はいなくならないよ。
だって馬超さん、前言ってくれたよね?
私達は家族だって。」

「・・・!・・・・・もう、俺はお前を離せなくなるぞ。」

「へ!?」











「愛している。」



























ずっと、言えなかった言葉。



















やっと、言えた。






















「ずっと、あなたの傍に。」


























空が白い。
この地で、再び彼の隣で見ることができた。

太陽。





































私は家族を捨てました。

でも、私は家族を捨てきれませんでした。

私のこの決断は貴方達へ辛い想いをさせてしまうでしょう。

でも、どうか、許してください。

どうか、見守っていてください。

私は貴方達を忘れません。

貴方達が私を忘れない様に、どうして私が貴方達を忘れることができましょうか。

私は、今、幸せです。幸せなんです。

しかし、その幸せは貴方達の想いなしでは成りません。

どうか、私の最後の我侭を。

祈っていてください。

私の幸せを。






















...fin...











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ほわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!

終わった・・・!終わってしまった・・・・・・!!!!

最終話なのに、更新すごく遅くなってしまいました;
待ってくださっていた方、すみません&ありがとうございます。
しかも長いですね;
なんかきりもつかなかったし、せっかく最後なのでいっきに読んでいただきたかったのです・・・。


しかし、この連載を初めてから丁度10ヶ月ですかね。
ここまでお付き合いくださった方、本当にありがとうございます><
思えば、この小説は10000HIT記念に始めたものでしたね。
今ではもう20000HITも越えましたが・・・(本当に感謝感謝です)
このお話は天甜兄者と妄想を語ったことから始まりました(笑)
まさか連載して、しかも完結してしまうとは!
本もハリ●ポッタ●くらいしか読んだことがないくらい読まないし、文章作品も初めてでした。
それなのに、ここまで続けられたのは、亀更新なのに、このサイトに通っていただいたり、
励ましのメッセージなどをくださった皆様のお蔭です。
まだまだ亀更新のこのサイトですが、これからもお付き合いよろしくお願いいたします。





・・・と、あ。

この話、まだスッキリしないところがありますね?
そうです。蒼馬さんと王蒼らへんのエピソードがまだもやもやしております。
蒼馬もなんだかよく解らないことを色々と口走っています。

本編で語ることができなかったその辺を、
いつか・・・・ほんとにいつか、番外編にして書こうと考えています。
また私生活が落ち着きましたら、番外編も書こうと思いますので、
もう少々お待ちください!




本当に、ありがとうございました!!!







09.2.15