番外編




本編の少し後のお話





*運命はひょんなことから始まるのである*









「ばちょ〜〜〜さま〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


ある日の昼下がり。
まだ声変わりも程遠い、少年の高い声が庭に響き渡った。


「あれ?どうしたの、王蒼?」


その少年の声に反応したのは、その「馬超様」ではなく一人の少女。
少女は庭の隅で洗濯物を干していたようで、建物の影からひょっこり顔を覗かせた。
彼女の名は。先ほどの叫び声の主である王蒼が異世界から連れてきたのである。
今はもうこちらの生活には随分と慣れたようで、薄緑の着物も違和感なく感じられた。


「あ、ちゃん!」
「お、。」


顔を覗かせた先には、お団子を結った小学校低学年くらいの少年だけでなく、
叫ばれた主である「馬超様」も一緒にいた。


「・・・馬超、何やってんの。」


そこでが目にしたのは、
簀巻きのように布でぐるぐる巻きにされた王蒼と
その布の端を持って悪戯に笑っている馬超だった。
















「おい、、ほどいてくれ!」


あれから少し。
簀巻きから救出された王蒼の隣には、今度は簀巻きにされた馬超がいた。
もちろん、簀巻きにしたのはではない。
が呼んできた馬岱だ。


「だ〜め!どうせまた執務抜け出してきたんでしょ。
今日はまだお城へ行っているはずの時間でしょう?」

「正解です、殿。」


そんなの言葉に返事をしたのは馬超ではなく馬岱。
どうやら馬超は、あろうことか執務中に城から抜け出し、
自宅へ帰ってきてしまったようなのである。
そして王蒼に見つかり、馬岱を呼ばれそうになったので、
あわてて簀巻きにした、といったところだろう。
この邸では馬岱が最高権力を握っているらしい。




「で、どうして帰ってこられたんですか?」

「それは、だなぁ・・・うん。」

「従兄上?」

「・・・う、だって!最近仕事ばかりじゃないか!
折角の怪我が完治したのだから、ゆっくり過ごせると思ったのに。
この忙しさは何だ!!俺はもう耐えられん!」


馬岱の真っ黒な微笑みに観念した馬超が発した言葉は、
馬岱の笑みを呆れた物に変えた。
なんだか空気はしら〜っとしたものに変わっているのに、
馬超はいたって真面目に発言したようだ。
彼は欠乏症。


「だいたい!俺が必死になって執務を片付けているのに、
王蒼はとべったりなのだろう!」


そう言って、いつの間にか簀巻きから抜け出した馬超は
王蒼の頭を掴んで少し乱暴に乱した。
王蒼のお団子は見事にぐしゃぐしゃになる。


((・・・そうか。王蒼を簀巻きにした理由の大半はこっちだったか。))


と馬岱が生暖かい眼差しでじゃれる二人を眺めた。
しかしまだこの時は、この小さな少年が爆弾を投下するなんて
微塵も予想していなかった。










「だって!ボクだって母さんと一緒にいたい!」










「「「・・・は?」」」














「・・・私、蒼馬さんと夫婦になった覚えはないよ。」

「王蒼、どういうことか説明してくれるな?」


かくして青い目の少年は、意識がしっかりしだした二人から怖い顔で迫られるのであった。















は軽く頭痛を覚えた。
あれから王蒼に詳しく事情を聞いたところ、
自分はなんと、王蒼の母・・・つまり蒼馬の妻の魂を持っているらしい。
解りやすく言うと、生まれ変わりといったところか。
どうやら魂は世界の境界など関係がないようだ。


「まさかこんなところで真事実が・・・。」


は米神を押さえた。
なるほど、これで不可解な蒼馬の発言や、妙に自分に優しかったことも頷ける。


「もしかして、殿をこの世界に連れてきたことも、その事と関係があるのかい?」

「え?うん、そうなるかなぁ?」


少し考えて質問した馬岱に、王蒼は頭をひねりながら答える。
ここで補足だが、どうも王蒼は頭がよろしくないらしい。
まぁ今まで馬として生きてきたのだから仕方がないといえばそうであるが。


「そもそも、何でを連れてきたんだ?
今となっては感謝するべきところかもしれないがな。」

「あれ!?馬超様覚えてないんですか!?
ボクがちゃんを連れてきたのは馬超様のためじゃないですか!!」


思っても見ない返答に馬超は目を点にした。
を連れてきたのは自分のため?覚えてない、とは何をだ?






















これは今から10年前の話。



「ほうら、王蒼!御飯の時間だぞ!一杯食べて力をつけて、馬一族一番の馬になるんだ!」


ここは、馬家の邸の大きな厩。
王蒼と呼ばれた小さな黒馬と
太陽に光る銀とも金ともつかない髪をした10歳くらいの少年が
青空の下で戯れている。

その少年は王蒼を大層可愛がっているようで、始終顔が緩んでいた。


「従兄上ーー!従兄上ーーー!!どこにいらっしゃいますかーーーー!?」


そんな折、聞こえてきたのは見知った声だ。


「馬岱か。俺は厩にいる!」


どうやら馬岱と呼ばれた少年は近くまで探しに来ていたようで、
すぐに厩に顔を出した。
その少年の彼の髪もまた金のような銀のような色をしていた。


「従兄上、また厩にいらっしゃたのですね。王蒼と仲が宜しいようで。」

「あぁ、父上がくださった大事な相棒だからな。そんなことより岱、どうした?」

「そうでした。馬騰様が御呼びですよ。」

「父上が?何用だろうか。」

「何やら、見合いがどうとか言ってらっしゃいましたが・・・。」

「見合い!?またか!俺にはまだ早いと何度も言っているというのに!」


馬岱の言葉に馬超は呆れたように言った。
馬超の父は大層準備が良いようで、今までにも同じことがあったらしい。
うむ、確かに10の子にはお見合いはまだ早いかもしれない。


「でも、何か馬超のためになるお家だーとかおっしゃってましたよ?」


馬岱も馬岱で馬超のことをよく解っているようで、冗談めかして言う。
馬超は溜息を吐きながら、それでも隣の黒馬の背を撫でる手は止めずに馬岱に顔を向けた。


「むぅ、そのような父上の考え方は好かん。
やはり自分の妻にするならば自分の好いた相手がいいな。
仕事が終わって家へ帰った時には、一番可愛らしい相手に待っていて欲しいものだろう?」


幼いながらにしっかりとした恋愛感を語る馬超だが、
顔は少し照れたように赤くなっていた。
馬岱はそれを見て少し微笑んだ。


「なぁ?王蒼もそう思う・・・うわぁ!」


馬超が照れ隠しに王蒼に語りかけた時だった。
馬超に撫でられていた黒馬は何の前触れもなく走り出したのだ。
それに驚いてしりもちをついた馬超に心配して馬岱は駆け寄ったが、
馬超は唖然と黒い後ろ姿を見つめるだけだった。

王蒼は普段から大人しかったので、
御飯の時間だけは窮屈そうな縄をはずしてやっていたのだ。
そんな馬超の気遣いなど知らぬように、王蒼は厩を抜け、庭を駆け、
とうとう敷地を出て、あっという間に見えないところまで駆けて行ってしまった。


「従兄上!怪我はありませんか!?」


馬岱は馬超の体を見るがどうやらどこにも怪我はないようだ。
ほっと胸を撫で下ろすが、馬超の顔をみてギクリとした。
馬超の目に涙が溜まっていたのだ。


「あ、従兄上?どこか痛いところでも」
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!王蒼に嫌われたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


やはり怪我はなかったようだが、馬超は王蒼が自分の元から
いきなり走り去ってしまったことが相当ショックだったらしい。
馬超はいきなり泣き叫んだ。
普段はしっかりしている自分の従兄弟を見て馬岱も驚いている。
馬超をどうしようかとあたふたしていた馬岱だが、
馬超の壮絶な叫び声を聞いて家の者が飛び出してきたので、
今度はそちらに状況の説明をするのに手いっぱいになってしまった。




その後、大人の男何人かで走り去った黒馬を探したのだが、
見つかることはなかったのだった。
























「・・・・・・・・そういえばそんなことも」
「あったよーな、なかったよーな。」


王蒼から話を聞いた馬超と馬岱は口の端をひくつかせた。
馬超にいたってはあまり思い出したくない思い出らしい。


「あったよ!だから、ボクは“一番可愛らしい”世界で一番の女の子を連れてきたんだよ。
いつも良くしてくれていた馬超様のために!!
大変だったんだから。母さんの魂の匂いをたどって違う世界に渡るのって。
お蔭で見つけるのに10年もかかっちゃった!」


王蒼はアハハと笑い、なんの悪びれも無く、寧ろ良いことをしたでしょ!?
とばかりにとんでもない真実を暴露した。


「・・・そ、そんな理由だったんだー。」


もこれには苦笑いだ。
というか、王蒼の中では『世界で一番の女性』=『お母さん』なのか。
なんか少しかわいい。
しかし、王蒼は「一番可愛らしい」の捉え方を間違っているような気もする。


この世界に来て、そして馬超に会えたことはとても幸せだったけど・・・
流石に複雑な気分だ。
馬超もはじめは複雑な、申し訳無さそうな顔をしてを見たが、
ふっと顔を笑顔にして言った。


「それは、王蒼に感謝しなければならないな。」










自分のこの世界にきた原因がとても微妙だったけど、
皆で笑いあっていると、そんなことどうでもよくなってきた。

むしろ、こんなに幸せを感じられるなら、
私も言っちゃおうか。




「王蒼、ありがとね。」








でも、これからは王蒼にお勉強をさせなければ、と
一同は腹に決めるのであった。
















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お久しぶりです!本編終了から3ヶ月ほどでしょうか?
やっと番外編更新であります。
もし待っていたという素晴らしきお方がいらっしゃいましたなら、
お待たせいたしました^^


ていうか、今度は懲りずに王蒼に嫉妬か馬超w


色々本編で書けなかったことを書いてみましたが・・・
つめこみすぎましたねorz
すみません。
相変わらずごちゃごちゃしていて、伝わっているのやらどうなのやら。
しかし、まだ書き残した部分がありますので、もう一話番外編を書くかもしれません。
書き残した部分は王蒼が馬家に飼われるまでの話。王蒼一家の話です。
・・・てか、読みたいというお方はいらっしゃるのか・・・。


この3ヶ月でキャラの性格忘れた&文章まったく書いてなかったので文章の書き方忘れた
ですっごく微妙になってることと思います。
ここまで読んでくださった貴女、本当に有難うございました!!


ちび馬超を書くのが楽しかったですw




2009.5.12